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福島地方裁判所 昭和34年(わ)163号 判決 1960年3月18日

被告人 渡辺幸

昭一五・七・二七生 店員

主文

被告人を禁錮五月に処する。

但し本判決確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

被告人は福島県二本松市本町二丁目七十九番地合資会社藤井商店(医薬品等の卸小売業)に店員として雇われている者であるが、

第一  免許を有する店員に差支ある場合、商品配達のため、及び将来自らも免許を獲得するについて練習のため、従来時々同会社備付の軽自動車(福島け五二二六号)の運転を反覆していたところ、昭和三十四年五月二十三日午后五時四十五分頃、練習のため右軽自動車を運転し同市本町二丁目四十七番地先国道を福島市方面に向け時速約四十粁で進行していたが、同所附近は交通頻繁で道路の北側には福島電気鉄道株式会社二本松営業所が在つて乗合自動車の発着所となつて居り、当時同所前には同会社の乗合自動車二台が福島市方面に向けて前後約二米位の間隔で一列に停車して居り、又同所の南側には郡山市方面に向けて同社の乗合自動車一台が停車して居り、他方福島市方面から同社の他の乗合自動車一台が同営業所に接近して居つたので斯かる状況下においては、通行人が右各乗合自動車の前又は中間から出で道路を横断することがあり而も右自動車の車体に視野を妨げられ、予め通行人の動作を十分注視することが困難であるから、被告人の如く自動車運転の業務に従事する者としては適度に速度を減ずると共に前方各乗合自動車附近の状態を遺漏なく注視し、不意に路上に飛び出した者があつても直ちに之を安全に避譲し得る様に注意を払うべき義務があることは当然であるのに、被告人は之を怠り漫然前同速度で前進を続け前記停車中の二台の乗合自動車の中間から渡辺博(当時三十八年)が道路を北側から南側に横断しようとして国道上に出て来たのをその手前約十二米の地点で発見しながら之を安全に避譲できるものと即断しその儘同人に近接しその手前五米余の地点で俄に危険を感じて急ブレーキを掛けたが時既に遅く前同時頃遂に自己の車のハンドル左側を渡辺の右腕に接触之を路上に顛倒させて同人に頭蓋骨々折等の傷害を与え同人をして受傷後約一時間にして右傷害に因り同市本町一丁目三十五番地桝孔助方において死亡するに至らせ、

第二  法令に定められた資格がないのに拘らず前同日二本松市本町二丁目四十七番地附近路上において前記軽自動車を運転して無謀操縦をした。

(証拠の標目)(略)

弁護人は被告人は勤務時間以外に本件事故を起したものであるから、業務上の過失致死ではなく又被害者は相当酩酊していたから被告人は重過失の責任もないと主張するから按ずるに凡そ刑法第二百十一条にいわゆる業務とは人が社会上の地位に基いて継続して従事する事務をいい、その事務は職業又は営業であることを必要とせず又法規上免許を必要とする場合でも免許の有無を問わないものであつて結局人の生命身体に対する危険を伴う同種類の行為を反覆する事実を謂うものと解すべきところ、被告人は判示のとおり合資会社藤井商店に雇われている者であるが同店における仕事の必要上自らも運転免許を取るため軽自動車の運転の練習を反覆していた間に本件を起したのであつてその練習が店員としての本来の仕事に属せず又会社の指示に基いたものではなく専ら自己の意思に依つて行つたものとしても尚店員としての地位に関連を有すると共に反覆して行われた事実が認められる以上之を目して前示法条の業務と解するを相当とする。然らば被告人の本件行為が重大な過失に因るか否の判断を俟つ迄もなく弁護人の主張は採用することができない。

法律に照すと被告人の判示第一の所為は刑法第二百十一条前段、罰金等臨時措置法第二条第一項、第三条第一項第一号に、同第二の所為は道路交通取締法第七条第一項第二項第二号、第二十八条第一号、罰金等臨時措置法第二条に夫々該当するところ、以上は刑法第四十五条前段の併合罪であるから前者の罪については禁錮刑を、後者の罪については懲役刑を各選択し、同法第四十七条(本文及び但書)、第十条を適用し重い第一の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で処断すべきところ被告人は少年法第二条第一項に該当する者であるから、情状に依り同法第五十二条第三項、刑法第二十五条第一項第一号を適用し被告人を禁錮五月に処し本判決確定の日から四年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文に則り全部被告人の負担とする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 菅野保之)

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